ポイオティア王アタマスは女神ヘラの思し召しによって妖精ネペレと結婚しプリクソスとヘレの兄妹を生みます。その後アタマスはイノ(カドモスの娘)と再婚。後妻イノは、王位継承権をもつ継子をうとましく思い兄妹の二人を神殿の生贄にするように仕向けます。
実母ネペレは息子と娘を助けるようゼウスに懇願しゼウスはヘルメスにこの件を委ねたのでした。ヘルメスは二人の救出のために、空とぶ金色の羊を送ります。金色の羊は二人を乗せて、コルキスへと向かうのですがその途中、妹のヘレはあやまって海に落下してしまいます。
コスキスに脱出した兄プリクソスは、コルキス王の娘を娶り、金色の羊の毛皮を王に贈ったのでした。王はこの毛皮を国宝として、軍神アレスを祭る森の樫の木にこれをかけて、竜に見張らせます。
後に、テッサリア王子イアソン率いるアルゴ号の探検隊がこの金色羊毛を奪いにやって来ることになるのです・・・。
牡羊座はこの金色の羊をかたどったものです。
牡牛座の神話には2つあります。どちらも多情な神の王ゼウスとその浮気相手の話でイオもしくはその子孫のエウロペが浮気の相手。一方ではゼウスの浮気相手が牡牛の姿に、一方ではゼウス自身が牡牛の姿に変身します。
1:牡牛の姿にされたイオ
河の神イナコスの娘でヘラの女神官だったイオはヘラの夫で神の王であるゼウスの浮気相手となります。ゼウスとイオが川辺で戯れているところを嫉妬深い妻ヘラが発見しやってきます。あわてたゼウスはあたりに雲を発生させつつイオを牡牛の姿に変えてしまいます。
牡牛が怪しいと見たヘラはこれをむりやり引き取り百の目をもったアルゴスを監視につけます。ゼウスはヘルメスをつかわしてアルゴスを殺させ牡牛の姿のイオを解放します。ヘラは今度は大虻を放ちイオを追わせます。
イオは逃げ回りエジプトにたどりついてゼウスに元の姿に戻してもらい、エパポスを生みます。ヘラはイオに暴漢をさひむけますがゼウスが必殺の雷電で退治してしまいます。その後イオはエジプト王と結婚、ゼウスとの子のエパフォスはエジプト王位を継ぎます。そしてイオはイシス女神と同一視されています。
2:エウロペに牡牛の姿で近づいたゼウス
イオの子孫でアゲノル王の娘のエウロペ。彼女が侍女たちと海辺で草摘みをしていると白い牡牛がやってきて彼女のもとにうづくまります。エウロペが牡牛に乗ってみると、牛は海の上を猛然と駆けて彼女を連れ去ります。牡牛の正体は実はエウロペをみそめた神の王ゼウス。エウロペを油断させるために変身したのでした。
クレタ島に到着すると、ゼウスはエウロペを守るために青銅の巨人・タロスと必ず獲物を獲る猟犬をつけ、さらにかならず命中する槍を与えます。ここでゼウスとの間にエウロペは三人の子を産みました。後にクレタ王となるミノス、立法家となるラダマンテュス、リキュア王となるサルペドンです。その後エウロペは三人の子連れでクレタ王妃となりました。なおエウロペの名は"ヨーロッパ"の語源となっています。
猛然と走り去るゼウスの化身の牡牛というのはゆっくりマイペース型の牡牛座のイメージにはあまりしっくりこないかもしれません・・・・。
神の王ゼウスは白鳥の姿でスパルタ王妃レダに近づきカストルとポルックスの双子をもうけます。双子ながら兄のカストルは人間として(レダの夫のスパルタ王の子と言う説もあります)弟のポルックスは神として卵から生まれたのでした。兄は剣術と拳闘の名手、弟は馬術の名手に育ちました。
双子の兄弟は数々の冒険を共にするのですがテッサリアの王子イアソンに率いられて金色羊毛を奪いに行くアルゴ号の冒険にも参加しています。船が嵐になったときオルフェウスが竪琴をひくと双子の頭上に星が現われ、星のみびびきで一行は難をのがれます。このため、二人は船の守り神とされたのでした。
牛をめぐる従兄弟らとの争いがあった際、人間であるカストルは殺されてしまうのですが不死身のポルックスはゼウスに願いをかけて不死身の寿命を兄とわけあい、一日おきに二人で交代にオリュンポスと冥界で暮すようにしたのでした。
なお、トロイ戦争の原因となった美女ヘレネはこの双子の妹にあたります。
卵から生まれた・・・というあたりがお茶目な双子座らしい感じですね。
英雄ヘラクレスがヒドラと戦ったときヒドラに味方してヘラクレスの足を攻撃した大きな蟹カルキノスの星座です。
ヘラクレスの母はペルセウスの孫であるアルクメネー。戦いで遠征中の婚約者に化けたゼウスと彼女が交わりできた子供です。ゼウスの妻のヘラは、夫の浮気でできたヘラクレスを憎みます。ヘラの呪いで妻子を殺してしまったヘラクレスは神託によりエウリュステスに仕える生活に入ります。
主人に十二の仕事を申し付けられるのですがその二番目の仕事が九つの首を持つ怪獣ヒドラ退治。怪獣のテュポンとエキドナの子でヘラが育てた怪獣で、アルゴス近くの土地の野にすみ、家畜や農地を荒らしていたといいます。その首のうち一本は切っても生えてくるため不死身です。
ヘラクレスは甥のイオラネスの協力をえて戦います。その最中にヘラクレスを邪魔するためにヘラは蟹のカルキノスを放ちます。蟹はヘラクレスの足を鋏んでヒドラを助けますがあっさりとヘラクレスに踏み潰されてしまいます。テュポンの不死身の首を切り、切り口を焼いて再生を防ぎヘラクレスは勝利をおさめます。
ヘラの女の情念にゆかりのある蟹だけあって蟹座はとても感情的な星座なのです。
ゼウスとアルクメネーの息子ヘラクレスは、ゼウスの妻ヘラの呪いの結果ミュケナイ王エウリュステスに仕え十二の仕事を命じられるのですが(※蟹座の神話参照)その第一の仕事がネメアの谷にすむ獅子を退治することでした。
獅子は怪獣テュポンと、蛇の下半身をもつ女エキドナの子で猛犬オルトスの兄弟。周辺の人や家畜を襲っていたといいます。
現地にやってきたヘラクレスは獅子を弓で射ましたが効果がありません。そこで棍棒で獅子をおいつめ、絞めあげて殺しました。その皮を剥いでミュケナイに持ち帰ります。
ところがエウリュステス王はヘラクレスのあまりの力に恐れをなし市街の中に入ることを禁じます。門の前で獅子の皮を示させました。王は、以後の仕事は使者をつうじて命じるようになりました。
その後ゼウスは、息子ヘラクレスの功績を記念するためネメアの獅子を星座にしたのです。
この獅子の力づよさや簡単には倒せない粘り強さは獅子座の性質にひきつがれていますね。なお、タロットの大アルカナの「力」のカードにはネメアの獅子に棍棒をふるうヘラクレスをあしらったものがあります。
乙女座は母デメテルかそれとも娘ペルセポネかどちらかの星座といわれています。神の王ゼウスの姉である豊穣の女神デメテル。ゼウスがデメテルを襲い生まれた娘がペルセポネです。やはりデメテルの弟にあたる冥界の王ハデスがこの娘ペルセポネを見初めて冥界につれさり妃とします。その後母デメテルの願いによるゼウスのとりなしで娘は一年の三分の一だけを冥界ですごせばよい、ということになります。この期間が不毛の季節である冬です。
また乙女座を、この母もしくは娘ではなく、ゼウスと伝統の女神テミスとの間に生まれた正義の女神アストレアとする説もあります。かつて神と人間はともに地上で暮していたのですが争ってばかりの人間から離れて神々が去っていったのでした。そんな中で、最後まで残った神がアストレアでした。ちなみにアストレイアが手にする天秤が星座になったのが天秤座です。
これらのどの女神を乙女座とするのがより適切か。アストレイアは潔癖さにおいて乙女座的ですが天秤座とのつながりがあまりにも濃厚です。母と娘では乙女というイメージから当然娘の方のように思えます。さらに母デメテル=セレスは小惑星として牡牛座、乙女座、および牡牛座と蠍座を司るとも考えらえていますから、やはり娘デメテルが乙女座としてふさわしいようにも思えます。自ら主体的に状況をコントロールすることなく周囲に翻弄される受動性も乙女座的であるといえるでしょう。
天秤座は正義の女神アストレアの天秤をかたどったものです。
母のテミスはウラノスとガイアの間に生まれたタイタン族。甥である神の王ゼウスの二番目の妻となり、生まれたのがホーライ(季節)、モイラ(運命)、アストレア(正義〉、エイレネー(平和)と、エリダノスの妖精の母でした。
さて、ギリシャ神話では歴史に黄金・銀・銅などの段階があって世界はだんだんと悪くなっていったと考えられています。黄金時代には人と神々は共に地上に暮していました。食べ物に困ることもなく何の不足もない豊かな時代でした。銀の時代が来ると四季が生じ、人間は農耕をするようになりやがて貧富の差が生じて、たがいに争うようになりました。神々は人間に嫌気がさし、天界へと引あげて行きました。そんな中でアストレアだけは下界にとどまり、人間に正義を説いてまわっていました。銅の時代になると不正が広まり凄惨な戦争が起こるようになってアストレアも嫌気がさしてついには地上を去ってしまったのでした。
一時はアストレア=乙女座と、彼女の天秤=天秤座というように乙女座と一体のもののように位置づけられ、後に星座として独立したようです。
オリオンを殺した蠍が星座になったのが蠍座です。海の神ポセイドンとミノス王の娘エウリュアレーの間の息子がオリオン(女神ガイアの子と言う説も)。彼は逞しい巨体と美貌に恵まれていたのですがそのことで慢心し、神々から嫌われていました。
あるとき月の女神アルテミスと狩をしていたオリオンはどんな獣でも射止めてみせると自身たっぷりに言ったのでした。これを聞いたヘラ(もしくはガイア)が腹を立て大きな蠍を送り込んだのでした。蠍の毒針の一刺しでオリオンは殺されてしまいます。
あるいは、オリオンがアルテミスを犯そうとしたためアルテミスがこの蠍を放ったともいわれています。
オリオン座と蠍座は逆の方向にあって蠍座が空に昇るとオリオン座は逃げるように地平線に沈みます。
上半身が人間で下半身が馬であるケンタウロス族で癒しの神カイロン(キロン)の星座が射手座です。大神ゼウスらの父クロノスが馬に化け、妖精ピュルラと浮気して生まれたのがカイロンです。野蛮なケンタウロス族として生まれながら、カイロンはとても賢明でした。そしてアポロンとアルテミスとから弓と狩、医術や予言、音楽などの技術を授けられました。
カイロンは神話に登場する多くの英雄や神にその技術を伝術しました。アルゴ号遠征隊の隊長イアソン、トロイ戦争で活躍した英雄アキレス。怪力のヘラクレスや、双子座のかたわれであるカストル、アポロンの息子で医術の神アスクレピオスもカイロンの弟子です。
ゼウスがティティスを口説き落とせず、腹をたてて人間であるペレウスに嫁がせようと決定したときカイロンはゼウスに協力して、ペレウスに入れ知恵をしています。
カイロンのその最後は悲劇的です。戦闘中の事故で愛弟子ヘラクレスの矢に当たってしまったのですが不死身だったので苦しくても死にきることができません。プロメテウスに不死性を譲ることでようやく安らかに死ぬことができたのでした。
射手座の姿はまさにカイロンが弓を引き絞っている姿をかたどっています。射手座生まれの思慮深さと野性味との二重性、そしてラブハンター的な性性質は、カイロンの性格と技を反映するものでしょう。また、カイロンは小惑星にもなっています。
山羊座はアルカディアの牧人の神パーンが星座になったもの。パーンはヘルメス神とドリュオプス王ドリュオペとの間に生まれたとされています。デュオニュソス神が名づけ親だったとか。
上半身は人間ですが山羊の角ととがった耳がついていて毛深く下半身は山羊で足にはひづめがついています。若いときから実際よりも老けて見られていました。パンは昼寝が好きで誰かが邪魔すると怒ってその誰かを「パニック」状態にしたのでした。
好色なパンはあるとき妖精シュリンクスを追い掛け回しました。逃げたシュリンクスは逃げ回って最後は葦に姿を変えます。パーンはその葦で笛をつくり愛用することに。
神々がナイル川の岸辺で宴を開いているときもパーンは葦笛を吹いていました。そこへ怪獣テュポンが襲いかかって来ました。神々はちりじりに逃げ出します。パンは逃げるときに魚に変身しようとしたのですがあわてていたので失敗し、上半身はもとのままの姿でした。そのときの姿が山羊座になったのでした。この時のパンの慌てた様子も「パニック」と関係あるかもしれません。
実際よりも老けて見られる、というのはいかにも山羊座。あわてふためく様子は山羊座らしくない感じがするかもしれませんが堅実な山羊座は計画どおりにいあかない場合には案外みっともなくなってしまうのかも。
水瓶座はガニュメデスと彼の水瓶を象った星座。
トロイ戦争で有名なトロイ王家の祖であるトロースのひ孫(あるいは息子)にあたるガニュメデス。彼はイーダ山のふもとで山羊を飼う牧童をしていましたがその輝く美少年ぶりで神々にまで知られていました。
その美しさは女性好きで浮気者な神の王ゼウスの心をもとらえました。ゼウスは鷲の姿に化身して舞いおり、彼をつれさらいます。悲しんだ父親のラオメドン(?)に、ゼウスは黄金の葡萄や俊足のトロスの馬をあたえて慰めます。
神の国では、ガニュメデスは神々の宴のボーイとして仕えたのでした。星座はその酌をする姿を表しているのです。
水瓶座生まれはガニュメデスの容姿をうけついで男女とも中性的で顔立ちがととのいいつまでも若々しい人が多いとされています。また恋愛においては道徳的な形にとらわることのない自由な感覚を持っています。
アフロディーテとエロスが魚に変身した際の姿を象った星座が魚座、黄道12星座の最後の星座です。
愛と美の女神アフロディーテと戦いの神マルスの間の子がエロス(キューピッド)。神々がナイルの河畔で宴を開いているときに大地の女神ガイアが作った怪獣テュポンが現われ、おどろいた神々はそれぞれ動物や鳥などに変身して逃げ去ります。パーンが山羊の姿に変身して山羊座になったのもこの時のこと。アフロディーテとエロスの親子は魚に変身し川の中へ逃げ込んだのでした。母子ははぐれないように、たがいの尾を結んでおいたのでした。その形は魚座のシンボルマークにもうかがうことができます。
母子がユーフラテス川の河畔を散歩中にテュポンに襲われて逃げた、という説もあります。
<アフロディーテの子を思う気持ちが魚座の無償の献身に反映しているかもしれません。